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第10回 不思議の国イギリス

第10回 不思議の国イギリス

(コミュニケ2000年1月号掲載)

 今回は英国南部のウェルズ地方へ買い付けに行きましたが、初めてウェルズを訪問した2年前のことです。そこでの地元の業者と自己紹介を交わしたとき、「私は今まで13回イングランドを訪問し、これが14回目の訪問です。」と何気なく挨拶すると、相手は「私は、まだイングランドへは5回しか行ったことがありません」と返事が返ってきました。”えっ…”と思ってよく考えてみると、ここはUKではあってもイングランドではないのです。私はうっかりイギリスのことをイングランドと言ってしまっていたのでした。

 英国(大英帝国)の正式名称はユナイテッド・キングダム(UK)であり、これはイングランド、ウェルズ、スコットランド、北アイルランドから成る連合王国を意味するわけです。また、グレートブリテンという場合は、北アイルランドが含まれません。従って、ウェルズはUKであり、グレートブリテンではありますが、決してイングランドではないのです。これがまず我々にとっては不思議な点の一つめです。

 2点めは、道らしい道もないのに、歩行者用の公道(パブリック・フットパス)の道路標示が田園のあちこちに見られることです。この国では、牧場や畑の境界線は、生け垣や石垣で仕切られています。この標識はそうしたところに取り付けてあるわけです。その石垣の部分には人間が道路から登って入れる階段が取り付けてあって、牧場に入れるようになっています。つまり、牛や羊は牧場から出られませんが、人間だけは、この踏み段を利用して石垣を乗り越え、自由に出入りできるのです。これは中世以前からあった公道が、近代農業が導入された時にそれまで小さく分割されていた牧場を効率を考えて、より広く大きな土地に区切り直されましたが、その時に、もとあった公道までが取り込まれ「通行の権利」を保証する意味で残ってしまったのです。家畜を囲いの中で放し飼いしても逃げられずにすむ妥協の産物なのです。田園の散歩が何より好きなこの国の人達にとってこの階段は無くてはならない存在なのです。
foot path
(左 標識、右 家畜は外へ出られないが人間はこの階段を使って牧場の中に自由に入れる仕掛け)
 

 第3の不思議は、彼らが趣味に注ぐ情熱です。日本なら、せいぜいゲートボールを楽しむぐらいの老人のジャズバンドが、プロ級の演奏を聞かせてくれたりします。ホームステイ先のジャックも、地元のジャズバンドに属してトロンボーンを吹いています。
jazz band 

 ある時買い付けの途中でこと。遠くの方から何やら汽車のような物が煙を吐いてこちらにやって来るではありませんか。よく見ると老人達が蒸気をつけた乗り物に乗って道路をゆっくりと走ってこちらに向かってきました。目の前を通過しようとする時に私がカメラを構えますと、サービスに蒸気を蒸かして汽笛を鳴らしてくれました。後ろには自動車がクラクション一つ鳴らさずにゆっくりとついて走っているのです。それはまったくノンビリとした光景でした。
スティームエンジン
蒸気をつけた乗り物(スティームエンジン)

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